古くからの建物が残り、風情ある「小江戸」と呼ばれる町はいくつかある。その中でも佐原の大きな特徴は、作られた観光地ではなく、実際に生活して商売を営んでいる土地であるところだ。先人たちが残してくれた遺産を大切に守り、磨き上げ、宝として受け継いでいる。
江戸時代、佐原は利根川から運ばれる豊富な物資と、旦那衆と呼ばれる豪商が持ち込んだ江戸の文化が融合し、本物を見極める感性が育まれた。これこそが「江戸優り(まさり)」の誇りである。何をするにも「本物」であることにこだわり、そのためには手間を惜しまず、妥協しない、損得は二の次、という佐原人の気質が数々の名産品を生み出した。そのような地に住み、佐原と深く関わったのが伊能忠敬である。名主として佐原の発展、災害時の救済などに努め、50歳からの第二の人生を実際に各地を歩きながら日本地図を完成させた人物だ。町の中心を流れる小野川のほとりにある「伊能忠敬記念館」[1]は、貴重な当時の暮らしを覗うことができる登録博物館であり、川を挟んで向かい側にある自身が設計した旧宅[2]とともに、見学が可能である(旧宅は現在修理中)。