今治市には、急流で身の引き締まった魚をはじめとする海産物や今治タオルなど、この地域ならではの特産物が数多くある。中でも農産物を使って、新しい「今治の顔」となる特産品を作ろう、と発足したのが「今治地域特産の農水産物を活用した特産品開発プロジェクト」である。
スタートは、数ある農水産物の中でも栄養価が高く健康食品としても注目の「はだか麦」[1]と、白くシャキシャキした食感が特徴の「鳥生(とりう)レンコン」[2]のふたつを使った、地元菓子組合との商品開発だった。素材の珍しさとしてのインパクトはあったものの、土産物につながるような商品がなかなか生まれず、何度も試作を重ねることとなった。そしてアイディアにも行き詰まりを感じたため、「スイーツコンテスト」として広く一般にレシピを公募することにした。
はだか麦や鳥生レンコンだけでなく、今治の農産物全体を対象に広げた「今治お土産スイーツコンテスト2011」[3]には、市内の大手菓子メーカーからカフェの個人オーナーまで幅広い応募があり、地元への想いを込めた力作がエントリーされた。競い合う、という形が良い刺激になり、特産品の新ブランド誕生に大きく一歩踏み出すこととなった。
まず、平成23年10月に1次審査を実施。一般から公募した200名の市民による審査により、10社10作品に絞り込まれた。そして平成24年1月にコンテストの決勝を開催。野菜を使ったスイーツの先駆者であるパティシエの柿沢安那さんを特別審査委員に迎え、抽選で選ばれた市民と合わせ計100名の審査委員により、一次審査を勝ち抜いた10作品を吟味した。味だけでなく、デザイン、パッケージなど5項目で審査。グランプリに輝いたのは、今治の特産品「はったい粉」を混ぜ込んだチョコクリームをパイで挟んだ『バリィふぃーゆ』[4]。パッケージデザインには、今治のゆるキャラである「バリィさん」を使用した。また、はだか麦を使った『焼き麦ドーナツ(バリイさんとむぎどちゃん)』[5]と、ブルーベリーを中に入れて船の形に焼き上げた『瀬戸の小舟』』[6]が準グランプリに、鳥生レンコンをパイで包んだ『しまなみ恋歌』』[7]、自社農園のジャムをタルトに乗せて食べる『しまなみ花畑』』[8]が審査員特別賞にそれぞれ選ばれた。さらに、「レンコン丸」[9]「鶴姫の玉手箱」[10]「伊予のふるさと」[11]「なめとろブルーベリー」[12]「うきしまショコラ」[13]と合わせ、今回出展された10作品は、プロジェクトに合わせて立ち上げた地域活用商品ブランド「Gozzo-la!(ごっつぉーら)」(今治でごちそうを意味する"ごっつぉ"と、~達という"ら"をあわせた造語)に認定・販売され、今後もバックアップされることとなる。
審査員として市民も参加したことでプロジェクトへの認知度も高まった。また、特に女性からは「どこで購入できますか?」などの声が寄せられるなど反響も大きく、製作者へ直接の問い合わせも多くあった。今後は、本格的な商品化に向けてのブラッシュアップや、単価やパッケージの見直しのほか、各種展示会や東京のアンテナショップへ出展しその反応も探りながら、第2回のコンテストを企画中である。
平成24年2月8~10日まで、東京ビッグサイトにおいて「feel NIPPON春2012&震災復興支援」が開催され、連日多くの来場客で賑わった。今治商工会議所も出展[14]し、「今治お土産スイーツコンテスト2011」の上位受賞5作品を展示した。多くのバイヤー等に味わってもらい、生の感想の声を聞くことができたことで、今後の改良へのヒントも得られた。
製作者の一人として立ち会った「Pe・Pere(ペ・ペール)」[15]のパティシエオーナー・八木学さんは、「世界に誇れる瀬戸内海の美しい景色と子供時代の風景にあった小舟を形にしました。非常に苦労したのは土産物なので、できるだけ量産できるようにしなければならなかったことです。コンテスト以前から特産品を使った商品を試作していたのですが、今回は本当に良いきっかけとなりました」と語る。スイーツ作りの修行を経て再び故郷に戻って来た時に、今治の素晴らしさをあらためて感じた、と言う八木さん。今後も、今治という土地とスイーツに熱い思いを抱き、たくさんの人に喜んでもらえる特産品が生まれることを期待したい。