精密機械工業の町・諏訪での新しい試みとなる「CAJYUTTA(カジュッタ)」が誕生したきっかけは、とある飲食店での光景だった。ハーフカットされたグレープフルーツを山型のスクイーザーで女性が一所懸命に力を入れて搾っている。
「せっかくおしゃれをしても、あの姿は美しくないよね」
「もっと簡単に搾れることができないだろうか?」
そんな発想からスタートしたのが「果汁搾り機(カジュッタ)改良・販路拡大プロジェクト」である。アイデアはふくらみ、南国のビーチで見かけるココナッツにストローを刺して飲む、あのスタイルを果実で再現できないだろうか、というイメージが見えてきた。そのような大胆な発想を形にするために、大きな役割を担ったのが、「ものづくりSUWA」の精密加工技術である。それでも完成に至るまでには数々の苦労があった。一番は刃の形状、素材である。微細な厚さの違いによっても、味が変わってくる。刃の耐久テストも繰り返し行い、適切なものに辿り着くまでは、半年以上の時間を要した。こうした試行錯誤を経て、メジャーカップ型の初号機が完成。続いて、サイズとデザインにアレンジを加えたスタイリッシュな流線型のビールサーバー型(2号機)[1]が誕生し、平成24年2月に東京ビッグサイトで開催された共同展示商談会「feel NIPPON 春2012」[2]で披露。グレープフルーツをそのまま活かした器はグラスのように倒れてこぼれる心配もなく、カジュッタは大反響を呼び、連日ブースは多くの人で賑わった。飲食店だけではなく、レジャーランドやホテル、酒造メーカー、ビーチハウス、イベントの目玉商品としてなど、多様な商談が持ち込まれて大きな手応えを感じることなった。
果物をまるごとそのままの形で、果汁を搾ることができるカジュッタ。操作も非常に簡単で、
- 果物のヘタを取る
- 回転刃を差し込む
- レバーをゆっくりおろす
- 果物の内側で回転刃が広がり、果肉を搾る
- レバーをゆっくり上げる
- ストローを刺す
これでフレッシュジュースが完成する。丸いままの果実を手に飲む楽しさと、まるでもぎたてのような果物そのもののおいしさ、そして粗搾りの食感は、これまでにない味わいである[3]。ジュースで飲むには水分含有量の多いグレープフルーツが一番適しているが、その他の柑橘類もゼリーにしたり、凍らせて削りシャーベットにするなど、楽しみ方の用途は広い。
ワンタッチで刃が取り外せるので、メンテナンスも簡単である。実は、取り外しが簡単であるのに回転時には刃が外れないことと、刃が下に降りる構造と回転する構造が同じ軸で行える、というのは非常に難しい機能で、諏訪が誇る精密加工技術があったからこそ出来上がったのだ[4]。
カジュッタという、夢の発想を形にしたドリームチームを紹介しよう。チームリーダーは精密加工業(株)ヤマトの渡辺高志さん[5]。カジュッタの名付け親でもある。楽しみながら新しいことにトライしていく、まさに柔軟な発想と確かな技術でプロジェクトを牽引している。設計と製造を担当したアタゴシステム(株)の佐久間茂雄さん[6]。カジュッタ完成まで数々の課題を乗り越えた、タフガイだ。デザインと広報を受け持った(有)クローバーデザインの宮本総子さん[7]。インテリアとしても活用できる、機能性と美しさを備えた、メイドイン・イタリーを思わせるような洗練された作品となった。アドバイザーに、東京理科大学博士の市川純章さん[8]と平尾毅さん[9]を迎え、時には研究室でカジュッタの開発に勤しんだ。まとめ役となった諏訪商工会議所の宮坂淳さん[10]は「月に何度も皆で集まり、一丸となって臨んだプロジェクトでした。このメンバーがひとり欠けても、完成はなかったと思います。出来上がった作品を見た時は、本当に感無量でした」と語る。将来的には、世界への進出も狙っているカジュッタ。異国のビーチでお目にかかる日が来るかもしれない。