「SABAE Style」からは、漆を使った製品も生まれた。そのベースとなっているのは、この土地の伝統工芸である越前漆器だ。そのルーツは古く、1500年前、この地を訪れた継体(けいたい)天皇(当時は皇子)に、片山集落(現在の鯖江市片山町)の一人の塗師が黒塗りの椀を献上。その美しい色合いと造形に感動した天皇がこの地での漆器づくりを奨励し、越前漆器の伝統がはじまった。
寸分の乱れもない曲線美と、鮮やかな中にも落ち着きのある色と艶。越前漆器を手に取り眺めていると、なるほど、継体天皇が感動した理由がよくわかる。
堅牢な下地と優雅な彩色で知られる越前漆器は、木地・塗り・加飾など各工程が分業化されていることが特徴だ。金箔や顔料を使い鮮やかな模様を表現する「沈金」の工程を担当する山本勝さんは、「分業にすることで職人たちがプライドを持つし、製品の質が安定する。それにお互いの腕を信頼しているから、チームワークがいい」と笑う。また、越前漆器には「なんでもござれ」のフトコロの深さがあるという。重箱、手箱、お盆、菓子箱、花器など製品のバラエティが豊富で、家庭や旅館で広く使われている。ウイスキーフラスコなど、「SABAE Style」の「男の休日」シリーズで開発された製品も、越前漆器の存在感をさらに強める逸品だ。
「やっぱりいろいろな人に使ってもらわないと良さが分かってもらえないから」と山本さん。話しながらシャッ、シャッとノミを操る手さばきは時に緻密、時に大胆で実に鮮やか。しばし時を忘れて見入ってしまう。
「うるしの里会館」には越前漆器の魅力が満載。展示コーナでは歴史的な漆器や越前漆器の新たな取り組みが紹介され、ショップにはさまざまな越前漆器が並ぶ。隣接する職人工房では匠の技を間近で見学することも。また、事前予約で絵付け・沈金・拭き漆の工程が体験可。本物の手仕事に触れられる場所だ。
カターン、カターンと、小気味よい音が聞こえてきた。その音に引き寄せられ「鯖江市繊維協会」を訪れると、中で昔ながらの手織り織機を踏む人々が。織ってみますか? と勧められ、いささか緊張しつつ、両手両足を動かす。たて糸とよこ糸がリズミカルに織られ、縞模様がつくり出されていく。「これが幻の石田縞です」とスタッフの方が教えてくれた。
石田縞は草木染めの木綿縞で、江戸時代からこの地で織られ明治時代に隆盛を迎えたが、ファッションの洋風化もあって徐々に姿を消していった。だが、世界の最先端を走る鯖江の繊維産業のルーツとして、また身体にやさしく高い保温性をもつことから、石田縞は今改めて注目を集めている。「SABAE Style」で開発された石田縞製品も、現代性と懐かしさを兼ね備えたデザインで魅力的だ。
鯖江市繊維協会内の「石田縞手織りセンター」では、石田縞手織り体験ができる。徐々に完成していく布を見る楽しさは予想以上。伝統的な色使いの縞模様はもちろん、現代的な色使いで織ることも可能だ。スタッフの方は織り方指導だけでなく、石田縞の歴史や魅力も紹介してくれる。要予約。