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東北一の水揚げを誇る気仙沼漁港。朝の魚市場では買受人たちの声が飛び交い、1kmも続く細長い場内には、カツオやマグロ、メカジキ、そしてサメが並んでいた。襟裳岬の沖から戻ったばかりの船が接岸していて、海の恵みを降ろす男たちの動きが忙しない。
朝日を受けてキラキラと輝く内湾の向こうには造船所が見えて、その背後にはたおやかな山並みが確認できた。
港町・気仙沼は、豊かな自然に抱かれた町である。これを再確認することから、「スローフード都市宣言」の運動は始まった。なにも贅沢な料理を食べようというのではない。気仙沼の豊かな自然を守り、安全な食材の生産を目指し、伝統の料理を次の世代に伝え、さらに新たな特産品を開発する。こうしたことが目的と聞いた。
気仙沼といえばフカヒレを使った料理が広く知られているが、日本一の漁獲高を誇るのはサメだけではない。カツオも全国一である。サンマ、マグロも忘れるわけにはゆかない。
これらの食材を使った新しい特産品の開発に気仙沼商工会議所は取り組んできた。スローフードの町の面目躍如たる成果のひとつが、そばの上に気仙沼産のサンマのかば焼きを載せた「気仙沼そば」である。町のレストランで食べることができ、すでに地域の人々に親しまれている一品だ。
さて、帰宅途中の高校生のグループが、「アチチ!」と言いながらなにやら頬張っているのを見かけた。サメの形をしたタイ焼きの新バージョンだった。フカヒレに続く特産品として登場した「焼きジョーズ」だ。焼印されたKESENNUMAの文字が誇らしい。港町・気仙沼ならではのオヤツである。
夜の帳が下りた。酒の美味い土地である。古い家並みの続く町中を明かりを求めて歩いていると、頬を撫ぜる風が港のほうへ吹いていった。
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