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地域資源を活かした劇場型街づくり~『弘前感交劇場』

弘前商工会議所 講演

地域資源を活かした劇場型街づくり~『弘前感交劇場』

弘前商工会議所 まちそだて課長・村谷 要 氏

まち全体が劇場、そして市民が主役

青森県西部に位置し、人口18万人の弘前市。弘前城の城下町として知られるこの場所は、全国のりんごの20%を生産することでも有名で、「住んで楽しい町」を標榜する都市だ。

弘前商工会議所の村谷氏は、「まちそだて課」の課長。同課はその名の通り、ハード面を担当する“まちづくり”ではなく、より広くソフト面を開発・育成する“まちそだて”をミッションとしている。

当初は市民向けに、地元をもっと知ってもらうための取り組みをしてきたが、やがて市内のさまざまな資源を活かし“地域住民総仕掛け人”として交流人口を増やしていくプロジェクトに発展していった。

その原動力となったのは、平成10年から始まった「毎週木曜日の18時」に開催される語らいの場。弘前商工会議所のサロンを開放し、市民をはじめ商店街や旅館・ホテルの関係者、交通事業者、農家、教育関係者、NPOなど、地域の不特定多数の人々が集い、弘前について熱く語る。これが広く知られるようになると訪れる人も増え、いつしか市民のアイデアが集積する場となっていった。

そこで商工会議所はこの場を「やわらかネット」と名付け、そこで飛び出した地域振興のアイデアを、商工会議所や有識者、市、観光担当者などで構成する実務者会議でカタチにしていくというスキームが確立された。

その中で生まれたのが“劇場型まちづくり”だった。一番の輝きを見せるのは、市民そのもの。そして始まったのが、弘前全体を劇場に、まちで活躍する人たちが、市民の誰もが主人公になるという『弘前感交劇場』だった。

“創発”によって職人の技術を世界へ

『青森感交劇場』の主要なキーワードは「創発」である、と村谷氏は強調する。もともとは「進化・発展」を表す、生物の進化に関する言葉であるが、これを「新しい価値観やアイデアを〝創〟造して、具体的な活動を誘〝発〟していくまちづくり」と定義し、広く市民が地域資源を掘り起し、宝探しを進めるという活動に昇華させた。

そして、弘前の宝として、「津軽塗」「津軽打刃物」「こぎん刺し」「津軽木工」にスポットライトを当て、取り組みを始めた(うち「こぎん刺し」「津軽打刃物」は研修2日目で事業者訪問)。

津軽塗では、夫婦箸などが定番だが、有名デザイナーと津軽塗職人のコラボによって新たな手板(塗模様)を200枚開発。しかもこれらはヨーロッパ進出を意識し、現地の文化や歴史、色、空気などを取り込んで生み出されたものだ。そしてこれらの模様をふんだんに使い、職人がカップ、家具、アクセサリーなどを次々に開発。ヨーロッパ各地の見本市などに積極的に出展し、高い評価を得る結果になった。

また、津軽木工では、弘前には「よしず」づくりの高い技術を持つ職人がいることに着目。照明、インテリアを含めた“弘前な空間デザイン”を東京をはじめ、パリやロンドンにも売り込んでいる。掘り起こされた地域の宝が「創発」活動によって洗練され、弘前という地域の“場”をブランドとして世界に発信している。

宝の掘り起しが、観光振興や広域連携につながる

こうした地域の宝の発掘は、観光資源としても活かされている。

その1例が、「弘前タイム・ナビゲーション・ツーリズム」である。現在の地図に古地図を重ね、昔の町名や現存する歴史的建造物をたどることで、訪れた人がまるでタイムスリップしたかのような錯覚を覚える体験型ツーリズムを開発した。

また古い佇まいが残る弘前ならではの観光コンテンツが「路地裏探偵団」。独特のおもてなしや居酒屋文化が活きる弘前市中心部の路地裏を、ガイドと一緒に巡るものだ。

実際に、本研修の初日の最後はこの体験をしたのだが、貴重な建造物を見学し、迷路のように複雑な飲食店街を歩くだけでなく、語り部による小気味よい説明が分かりやすく、誰もがこの町のファンになるような魅力にあふれていた。

さらに、あまたある弘前の食の発信も盛んだ。特に「JAPANプレミアム『弘前りんご』ブランド構築プロジェクト」により、東京都内の有名デパートの売り場とりんご農家をインターネットで結んでさまざまな解説を施す「アクティブ・トレーサビリティ」や、りんごをすべて使い切り、加工品にも活かす「りんごのゼロエミッション」のほか、化学肥料を一切使わない「EMりんご」のPRも積極的に行ってきた。

そしてこれらのコンテンツは、国内の広域連携を生んでいる。北海道新幹線の開通を控え、函館エリアとの交流人口の増加を目的に農業や商工業など幅広い分野の連携を進めているほか、さらに下関や北九州、そして松本と言った日本の〝北・中央・南〟に位置する商工会議所との人・モノ・コトのコラボの展開もスタートさせようとしている。また、横須賀商工会議所とは弘前りんごを海軍カレーに加えた新商品を開発し、人気を呼んでいる。

「今やアイデアを出し、議論する場を職人たちが楽しみにしている」という、市民発の弘前の取り組み。場を提供し、さまざまなコラボを生み、商工会議所が事業化のサポートをし、発信するという『弘前感交劇場』は、多くの市民を主人公にしながら、さらなる盛り上がりを見せている。