このサイトは2020年3月31日まで稼働していた、feel NIPPONの活動報告サイトのアーカイブです。
2019年度までの活動報告をご覧いただけます(現在、更新はしておりません)。

弘前市の伝統工芸

事業者視察

弘前市の伝統工芸

弘前こぎん研究所 所長 成田貞治 氏
有限会社二唐刃物鍛造所 社長 吉澤俊寿 氏

地域ならではの伝統工芸が、新たなフォルムで世界へ~弘前こぎん研究所

弘前こぎん研究所 所長 成田 貞治氏

藍染めの麻布に、白い木綿糸によって鮮やかな幾何学模様が描かれる「こぎん刺し」の刺繍。始まりは定かではないが、江戸中期には文献に登場していたという。

江戸時代、綿の栽培に適さなかった津軽地方では、農民は木綿の衣類を着用することが許されなかった。しかし容赦なく寒さがやって来ることから、各農家では麻の布に糸を刺し、寒さを凌いでいた。こぎんは、極寒の地で農民たちが冬を生き抜くためのやむを得ない知恵から始まったのだ。

明治に入って木綿が普及すると、こぎん刺しは廃れる一方だったが、柳田國男(民俗学者)や民芸運動の提唱者である柳宗悦により、その模様の美しさが再評価されることになる。そして昭和35年、弘前こぎん研究所が開設され、古い着物の収集家や職人からの聞き取り調査や、模様のパターンの整理・復元を行ってきた。

特に近年は昔ながらのものづくりが注目され、ショッピングバッグ、化粧ポーチ、筆箱、コインケースなどの土産物もよく売れているという。

「今でもすべて手作業。そうした伝統を正しく伝えながら幅広い分野の商品に活かし、多くの人にこぎん刺しを知っていただければ」と成田所長。その言葉の通り、都内の高級デパートからワンピースの柄の特注を受けるなど、そのデザイン性が高い評価を受けている。

また、弘前商工会議所では平成20年から「津軽こぎん刺し」ブランド展開プロジェクトを推進。有名ファッションデザイナーとのコラボやミニチュアへのデザイン提供、またフランス人デザイナーと「着せ替え型こぎん照明」を製作するなど、新たな商品開発と販路の拡大を強力に支援している。

新しいものを取り入れながら、350年の伝統を受け継いでいく~二唐刃物鍛造所

有限会社二唐刃物鍛造所 社長 吉澤 俊寿氏

かつて津軽藩より刀の製作を命ぜられて以来、およそ350年歴史をもつ二唐刃物鍛造所は、日本有数の刀鍛冶の名門として知られている。

戦前は軍刀に、そして戦後は包丁にと、その高い金属加工技術が受け継がれてきたが、現在は建築用鉄骨の製造も手掛けている。

その技術力に注目したのが、弘前商工会議所の「津軽打刃物ブランド展開プロジェクト」。平成19年から展開された同事業では、海外展開を見据えてナイフや剪定ばさみなどさまざまな製品の開発を行ってきた。とりわけ、吉澤氏が開発した独自技法が「暗紋」と呼ばれる技法。「弘前市の隣、世界遺産白神山地の麓、西目屋村にある暗門滝の波紋からヒントを得た」という波紋は、包丁や靴べら、灰皿や文鎮の柄として好評だ。

こうして製作された製品は「情張鍛人(じょっぱりかぬち)/ TSUGARU IRON WORKS」というブランドでパリやドイツでの国際見本市やニューヨークでのテストマーケティングなどに出展。大きな評判を呼び、商談が次々に成立する結果となった。ヨーロッパでは職人の存在自体が珍しく、デモンストレーションでは人々の目を引き付けて離さなかったという。

そして今、吉澤社長のご子息・吉澤剛さんが新たな挑戦をしている。同社の8代目として「刀匠」の資格を得るために修業しているのだ。刀匠は刀鍛冶職人に数年間弟子入りした上、計8日間にわたる国家試験に合格して初めて認定されるもので、青森県では2人しか存在しないという難関だ。

かつて明治神宮や伊勢神宮に刀を奉納した刀匠、二唐國俊は同社の5代目。生涯に1本奉納するのがやっと、という世界で2本もの刀を奉納した伝説の職人だ。その技術が代々伝わり、そして20代の剛さんは刀匠への道を歩んでいる。「伝統をしっかり守りながら新たな技術にも挑戦していきたい」と語る吉澤社長。この2人の名工に、注目が集まっている。