『磨き屋シンジケート』の取り組み
燕商工会議所 講演
『磨き屋シンジケート』の取り組み
燕商工会議所 サービス課長 高野雅哉 氏
中国の台頭により、このままじゃ燕の磨き屋は全滅する!
新潟県燕市は、“磨き屋さん”と呼ばれる金属研磨の家内制手工業が有名だ。布をモーターで回転させて金属を磨くのだが、中国から安くて品質の良い商品が大量に輸入されるようになり、平成13年には金属研磨製品出荷額は平成4年対比で4割まで落ち、職人の数も最盛期の3分の1まで減少していた。こうした壊滅状態の中、商工会議所として何ができるか事業者にアンケートを取ったところ、「燕に仕事を持ってきてくれ」という声が最も多かったという。
そこで高野氏は、「中国の台頭により、このままじゃ燕の磨き屋は全滅する」との危機感から、平成15年に共同受注グループとなる「磨き屋シンジケート」を立ち上げる。営業窓口を燕商工会議所に一本化し、お客様からから提示された条件を見て最も適した磨き屋を選ぶという仕組みだ。ここで課題となるのは、燕の磨き屋は一匹狼が多いのだが、彼らの気持ちをひとつにしなければならないことだった。
そこで高野氏がとった行動は、中国の磨き工場の現地視察だった。実際に視察を行ってみたところ、巨大な工場では数多くの若者が長い生産ラインで働き、十分に使える商品を製造していたのだ。「このままでは完全に負ける。ひとりでやっていたら中国には勝てない。みんなで助け合ってやっていくしかない」という思いが共有され、ついに「磨き屋シンジケート」が発足した。
磨きだけでは仕事がなくなる。燕のモノ作りをしていかないと長続きしない。
「磨き屋シンジケート」の中国に対抗する武器は技術のみである。そこで、原子炉のタービンや医療用はさみ等の複雑な形状、または磨きの誤差100分の1という高い精度の仕事を徹底的に受注した。その結果、磨き職人もただ磨き上げるだけでなく、寸法の精度にこだわるようになり、想定していない大企業からも引き合いが来るようになった。ただし、こうした仕事は1回やるとすぐに仕事がなくなる。その後のリーマンショックもあり、平成18年から磨きの引き合いがなくなってしまう。
そこで高野氏は、「磨きだけではすぐ仕事がなくなる。燕のモノ作りをしていかないと長続きしない」との思いから、ステンレス製ビアマグカップ「エコカップ」の開発に着手する。同商品は紙コップに代わるエコ商品として、ビアマグカップの製造工程を減らしコスト削減を図ったものである。ナノレベルでの絶妙な磨きでビールの泡がクリーミーになり、ビールのおいしさを最大限に引き出す。
そしてエコカップは中の研磨が難しいが、紙コップの代用品なので2,000円を切る価格で売りたい。周りからは「高いし売れない」と言われたが、聞く耳を持たず、「自分がいくらだったら買うのか」「自分で作ったらどういう風に売っていくのか」を具体的にイメージし完成させた。その結果、エコカップは1万個も売れたヒット商品となった。
地域振興とビジネスが結びつく商工会議所と連携して欲しい!
燕商工会議所の共同受注は、直近1年間でエコカップが年間5,000万円、全体で2億円の数字を叩き出している。そして磨き職人からは、「会議所の役割は終わったから、次のヒット商品を作って欲しい」との要望を受けている。
そこで高野氏は、「磨き屋シンジケート」以外のブランド化を図るため、燕商工会議所自らが「Made in TSUBAME」の認証機関となって商品に認定を行い、認められた商品については「Made in TSUBAME」マークを入れられるようにした。会員が認定マークを使いやすいようロイヤリティを取らなかったところ一気に普及し、今では百貨店や専門店から大きな支持を得ている。
先日も海外の見本市に出たところ、ロシアの実業家から引き合いがあり、初回で1,000万円の取引になり、今現在では1億円近い売上に跳ね上がっている。
このように世界一の磨き屋集団となった「磨き屋シンジケート」だが、今の悩みは後継者不足だ。そこで就職セミナーを行い、受講者に磨きを体験してもらったところ、汚かったモノがきれいになるのを見て“なりたい”と思う若者も増えてきている。燕市も平成19年に金属研磨業の人材育成施設「磨き屋いちばん館」を設立し、後継者育成に力を注いでいる。
最後に高野氏は、「事業者には、地域振興とビジネスが結びつく商工会議所や行政と連携して欲しい。そしてモノづくりの付加価値となる感動を創造して欲しい」と話した。