鹿沼市街地の車道をよく見ると、ひっかいたような跡がある。不思議に思い町の人に伺うと、「あれは祭りの時にできた屋台の車輪の跡だよ」と教えてくれた。 普段は物静かなこの土地が、昼夜を問わず喧騒に包まれる時がある。10月の2日間、県内外から約20万人が押し寄せる「ぶっつけ秋祭り」だ。市内27の町からそれぞれ屋台(山車)が繰り出され、市内を練り歩きお囃子をぶつけあう。約400年の歴史を持ち、国の重要無形民俗文化財にも指定されている一大イベントだ。 この祭りが鹿沼でしか見られない理由は、その勇壮優美な彫刻屋台にある。精微な彫刻、今にも動き出さんばかりの霊獣、鮮やかな色使いなどの装飾部分はもちろん、釘を一本も使わず木を組んで固定することで実現した頑丈で揺れを吸収する内部構造まで、伝統の木工技術がいかんなく発揮されているのだ。古いものでは約200年前に作られた彫刻屋台。毎年の祭りで損傷を受けるたびに、歴代の木工職人が修復作業を行ってきた。江戸時代から平成まで脈々と職人たちの魂が刻まれているからこそ、彫刻屋台と祭りは鹿沼の誇りであり、見るものの胸を熱くするのだ。 彫刻屋台を作り出した木工技術は、近代に入り障子などの建具や和家具に活かされ鹿沼の産業を支えた。特に、木を組み付けて複雑な模様を作り出す組子に関しては、日本屈指の技術力を誇る。組子の織りなす美しさは一種の芸術であり、眺めているとまるでエッシャーのだまし絵を見ているように不思議な気持ちになってくる。だが、こうした匠の技も、洋風のライフスタイルと木はマッチしないなどの先入観で、活躍の場が狭まってきている側面がある。そこで、木工技術を限られた伝統芸能で終わらせないよう、いま鹿沼木工は時代のニーズに応える新たなチャレンジを進めている。 |
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文化10年(1810年)製作の彫刻屋台。鮮やかな彩色と精緻な竜の彫刻は圧巻の一言。 |
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ぶっつけ秋祭りの一幕。各町の彫刻屋台が市中で華麗さを競い合った後、お囃子合戦を繰り広げる。闇夜に浮かび上がる屋台の美しさとお囃子のリズムが混沌と陶酔をもたらす。 |
鹿沼木工の新たな試みのひとつが、今年5月にオープンした木工製品のアウトレットだ。木工関連業者が集積する木工団地内のスペースに1000点を超える製品が並び、その品揃えは建具、家具、木材、小物まで多岐にわたる。正規品から最大9割引とお買得なことはもちろん、製品に直に触れて高い技術と木のぬくもりを体感できるのもうれしい。「ここには商品だけでなく、木のプロがいます。家庭の木工製品のご相談からリフォームまで木に関して出来ないことはないので、ぜひ一度いらしてください」と責任者の田代さん。鹿沼木工の相談窓口としても活用されている。 所狭しと並ぶ製品はすべて鹿沼市内の木工業者によるもの。掘り出し物がたくさん見つかる。 |
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